#2021年上半期楽曲10選
2021年上半期〇〇10選ってやつ,新曲を積極的に漁らず過去の発掘もそこそこやってるので「この曲って2021だっけ……?」が頻発する
— Tsuuuuuuun (@Tsuuuuuuun1) 2021年7月13日
こんな調子なので7月入っても全然書けてなかったのですが,まわりのタグを周回して「これ2021か!」ってなったやつやYouTubeやApple Music,ニコニコの高評価欄を巡ってようやく書けました.泣く泣く選考外になった曲もたくさんあるのでどうかご容赦を.あとがきでも触れていますがどうしてもタイムスパンを長くしてしまうと有名曲だらけになってしまっているのでそこもご容赦を.あと順番に意味はありません.
ちなみに紹介する楽曲は各種サブスクを参照できるので可能な限りsonglinkを仲介しているのですがYouTube動画の表示に不具合のある場合もあるのでその場合はYouTubeのを追加で貼っています.
- 星野源「創造」
- YOASOBI「怪物」
- 可不「フォニイ」
- シャイニーカラーズ「Resonance⁺」
- 星見プロダクション「The Sun, Moon and Stars」
- 「GIRLS' LEGEND U」
- 東京事変「緑酒」
- ARuFa「さんさーら」
- フレデリック「名悪役」
- BUMP OF CHICKEN「なないろ」
- 終わり
星野源「創造」
よみがえった変態による「遊び」
10選とか言ってるけどこの曲に関しては今年入って一番よかった.初めて耳にしたのは任天堂のCMで,そのサウンドに圧倒されてしまった.なお,歌詞も曲調も星野源の「よみがえる変態」を読んでいるとより楽しめる.
サウンド面だと一番耳を引くのは任天堂の効果音のオマージュだろうか.マリオの効果音というのは日本国民ならほぼ全員が気づくだろう.それこそがマリオが35年培ってきた道標とも言えようか.それ以外にも工夫は多数存在する.色々技術の話をするつもりも無いがキーワードは遊びである.序盤から見せるクロマティックなスケール,ギターのフレーズやドラムのリズムパターンにキメの多さ,かなりの回数挟まれる転調,チップチューンなどなど,あまりに技巧的すぎてラジオで「LIVEでやるのは大変笑」といったほど.ポピュラー・ミュージック離れした工夫のされた裏の楽器群のリズムなどは目まぐるしく変わるがサビは曲中でかなり繰り返されているので実は覚えやすくキャッチーな印象にもなる.作曲については「よみがえる変態」で以下のように記されている.
昔から勉強が嫌いなので、専門学校で教わるような音楽理論はわからない。だから今でも音譜が読めないし書けない。メロディを書き記す術がないので、とにかく歌って憶え、良いメロディができたらそれをテレコに録音し、歌詞を思いつけばノートに書く。運がいい時は5分で1曲できることもあるし、長い時はこの作業の積み重ねで数カ月かかる場合もある
(中略)
曲作りを終えた後は、演奏してもらうミュージシャンを考える。僕の楽曲は全て自分でプロデュースしているので、バンドメンバーやレコーディングエンジニア、作りたい音に合いそうなスタジオも自分で決める(もちろん、スタジオ予約やメンバーへのオファー、スケジュールの調整はスタッフにやっていただく)。次に楽曲の編曲をする。頭の中でどんな構成、演奏にするか構築してからスタジオに入り、プレイヤー(演奏者)たちに口伝えや実演をしながら、その場で編曲していく。ギターを弾いて、「ここはこういうフレーズで」と指示したり、ドラマーの目の前で自分で叩いてみせ、パターンを指定したり、「ここでキメを入れたいのでギターだけ残してブレイクしてください」等と口頭で指示していく。
このように星野源は楽譜を読めないし書けない.それでも,いや,だからこそこのような遊び心に溢れたしがらみのない曲が書けるのだろう.アーティスト間でのスタジオのやり取りを見ると演奏者それぞれの遊びも生まれてきそうだ.ギターなんか聞いた瞬間に長岡亮介だとわかるし,というかこの曲の参加アーティストを見てほしい.
こんな個性豊かな豪華アーティストの色を出しつつ楽曲としてまとめ上げられているのが星野源の作曲法,ひいてはプロデュース能力なのかもしれない.
歌詞の方は先述の通り任天堂の要素がいくつも散りばめられている.「直接」「配られた花 手札を握り」「枯技咲いた場所から 手を振る普通と バタつく未来を 水平に見た考案」などなどがそうである.ただ,それ以上に星野源を特徴づける歌詞がある.
死の淵から帰った 生かされたこの意味は
命と共に 遊ぶことにある
僕らふざけた生き物 脆く
ひしゃげた文明の
これは星野源の人生を知る物からすればどの出来事のことかわかるであろう.彼は2012年にくも膜下出血を患い文字通り「死の淵」を味わったものである.この時のことも「よみがえる変態」にかかれているのでぜひ読んでほしい.
死ぬことよりも、生きようとする方が圧倒的に苦しいんだ。
この言葉は真理であろう.この世は地獄である.ならば褒美たる「死」という生からの解放のタイミングは自分で決めようじゃないかという決心は却って生命力を奮わせるだろう.「ブラックジャックによろしく」にもあった,死が近づく絶望の色は黒ではなく眩しさであると.そこから回復と再発をきっかけに「地獄でなぜ悪い」が作られたとも書かれている.
奇しくも星野源の闘病時の状況は今の世界の置かれている状況と似ている.31年間ひっきりなしに動かしていた身体が突然動かせなくなるほどのギャップはないが,身体は動くのに思うように動けないこんな世の中ではストレスが溜まってしまう.最初の手術のあとに初めて頭痛が消えた瞬間は子どもたちや飛行機の音,木々を揺らす音などの自然音であったらしい.ありふれた日常のなんて尊いことか.そして今の世の中には家から出なくても世界に旅立ち冒険することができる.そう,ゲームだ.
ゲームの中のキャラクターのマリオだって残基があるからシリアスに捉えられてはいないが常に「死の淵」に存在する.クリボーにあたっても,穴に落ちても死んでしまう非常に脆い存在,そんな彼もマリオカートやマリオパーティなど舞台が変われば遊びに全力を注ぐのだ.
とにかく,この曲には星野源の遊び心と生命力がスタイリッシュに表現されており,「よみがえる変態」は全人類読むべきである.
YOASOBI「怪物」
音楽×小説
この曲はTVアニメ『BEASTARS』第二期のオープニングテーマとして書かれたものである.このサブスク社会だとその曲やバンドのコンセプト無しにBGMとして消費されることも多いのでここで一度確認しよう.YOASOBIのコンセプトとは何か.
インターネットから人気に火が付いたアーティストYOASOBIは、「小説を音楽にするユニット」として誕生。小説投稿サイト「monogatary.com」にて実施されていたコンテスト「モノコン2019」の「ソニーミュージック賞」を受賞した小説を楽曲化するために結成された。
そう,YOASOBIは小説をもとに楽曲を制作する「小説×音楽」がコンセプトのユニットである.最も有名な曲の「夜に駆ける」の原案は「タナトスの誘惑」であり,死神であるタナトスの誘惑に魅せられた女とそれに嫉妬する男の話である.
作品側で有名なのは「ブルーピリオド」を原案とした「群青」であろう.こちらは絵を描くことの楽しさに目覚めた主人公を中心に,美術大学受験予備校や入学試験での苦悩が描かれる青春群像劇である.
最近リリースされた「三原色」は少々順序が異なり,YOASOBIのために描き下ろしされた小説が元になっている.少年時代に重なり合っていたR・G・Bが大人になって再び朝日のもとに重なり合う話である.
このようにYOASOBIの曲には小説という原案が存在するため,曲単体でストーリーを解釈するよりも元作品を見たほうが楽しめるからくりになっている.だからこそ収録アルバムは"THE BOOK"なのである.ではこの「怪物」はどうであろう.
軽くあらすじをWikipediaから引用しよう.
中高一貫のエリート学校・チェリートン学園内で、ある日草食獣アルパカの生徒テムが肉食獣に殺されるという「食殺事件」が起きる。テムと同じく演劇部部員であったハイイロオオカミの少年レゴシは、大型の肉食獣であることに加えて寡黙な性格や意味深な言動が災いし、テム殺しの犯人だと疑いの目を向けられてしまう。幸いこの疑惑はすぐに晴れることとなるが、結局真犯人は見つからないままであり、学園内に生まれた肉食獣と草食獣の確執のようなものが消えることはなかった。
タイトルの通り動物が登場人物の漫画であり,弱肉強食がキーになっているように見える.その実際は人間の本性を擬獣化したようなものであり誤解を恐れずに言うならばヒューマンドラマの類いである.なお,この曲のもとになった小説は「BEASTARS」の作者である板垣巴留によって書き下ろされたオリジナル小説「自分の胸に自分の耳を押し当てて」である.
YOASOBIの楽曲を深く語る上ではネタバレが必須になってしまうので深くは書かない.是非元作品を読んでほしい.その上で,
正気の沙汰じゃないよな
に震えてほしい.元作品ではその先のストーリーも知ることができるのでそちらもぜひ.
もちろん楽曲としての完成度も高い.とにかくこれまで作品を楽曲に落とし込んできただけあって歌詞とメロディ,曲の構成としての完成度が本当に高い.核となる歌詞の強調,登場人物の感情に合わせた曲作りの完成度の高さが故に原作のファンも満足できるものになっているのだろう.最初は低音ベースのワイルドで肉食的なリフが裏で流れ,サビでピアノが加わることで爽やかさが増した場面で心情が変わっている.「目覚める本能」のあたりでの盛り上がり方,ラスサビの感情の爆発具合がきっちり高いレベルで表現できている.それらの変わり目に要所要所で挟まれる転調はもはやYOASOBIっぽさとして最近は捉えられていることも.
作品を知ることでより曲の深みを感じることのできるYOASOBIの音楽,是非単なる消費にとどまらず,元となる作品にも触れてほしい.
可不「フォニイ」
VOCALOIDのキャラクター性とVirtualのキャラクター性
昔からVOCALOIDが自分の存在に疑問を投げかける楽曲は存在した.古くは「初音ミクの消失」がそれにあたる.
これは早い話がDrヒルルクの「人が死ぬとき」と同じで,コンテンツとして誕生した「初音ミク」というキャラクターは「人に忘れられたとき」に死ぬことをボカロ全盛期と言っても過言ではない2010年に警鐘として鳴らされた曲であると私は解釈している.
2010年に生み出された名曲がどれだけすごいかは上記のサイトを見ればわかるであろう.老人?はてなんのことやら……
ではこの「フォニイ」に用いられている可不というのはなにか.
可不”KAFU”は花譜の音楽的同位体として生まれた人工歌唱ソフトウェアです。
そしてその元となった花譜がこれである.
日本の何処かに棲む、何処にでもいる、何処にもいない17才。
様々な偶然により発見された類い稀な歌声を持つ次世代型バーチャルシンガー。2018年10月、バーチャルアーティスト・バーチャルインスタグラマーとして、仮想世界を拠点としながら現実世界への活動を本格始動。
初音ミクと決定的に違う点は元キャラクターの存在とその所在である.例えば初音ミクには中の人は存在するが初音ミク自身はオリジナルのキャラクターである.がくっぽいどやmegpoidは中の人がモデルになっているがその人は現実世界に存在する人である.しかし,可不には元キャラクターが存在する上にそのキャラクターは仮想空間を拠点としている.その上で以下のツイートを見てほしい.
可不の歌声について御意見ありがとうございました。賛否両論の5500件近くのコメントを頂き大変感謝しております。結果としてAが65%、Bが25.3%、Cが9.7%という投票結果となりました。これを踏まえ頂いたコメントも参考に花譜本人に最終結論を委ねます。明日の本人発表をお待ち下さい。#花譜 #可不 #KAFU pic.twitter.com/hX71VbE8wE
— PIEDPIPER/KAMITSUBAKI P (@PIEDPIPER2045) 2020年10月18日
花譜の音楽的同位体「可不」について、今の私の気持ちをお話します。#花譜 #可不 #KAFU #CeVIO #KAMITSUBAKI_STUDIO pic.twitter.com/z8unJdRnPg
— 花譜-KAF- (@virtual_kaf) 2020年10月19日
そしてこの曲の歌いだし,
この世で造花より綺麗な花は無いわ
何故ならば総ては嘘で出来ている
サビ
簡単なことも解らないわ あたしって何だっけ
それすら夜の手に絆されて 愛のように消える
花譜,そして可不のアイデンティティとはなんなのだろうかということを考えさせられる.仮想空間のキャラクターとして現に存在する花譜,音楽的同位体として作られたもののオリジナルに似せられることを拒まれた可不,これらの点がVirtualの面白い点だと思った.Virtualの世界ではなりたい自分を見た目や設定の上で表現することができる.では更にその似非の機械は何者なのだろうか.
また,上記のリンクを見ればわかることだが,可不の製品のリリースは2021/07/07,そしてフォニイの投稿日は2021/06/05.発売される前からこんなにメッセージ性の強い楽曲が出てしまえば今後出る曲に大きな影響を与えること間違いなしであろう.
シャイニーカラーズ「Resonance⁺」
空と色とツバサのシャイニーカラーズ
シャニマスは今年に入って曲がめちゃくちゃ増えた.ソロ曲の増加が主な要因である.ソロコレだと「星をめざして」「プラスチック・アンブレラ」「夢見鳥」「SOS」が強い.もちろんユニット曲だっていい曲が多い.直近でgame尺が公開された「拝啓タイムカプセル」も短尺なのに歌詞が良すぎるし「みんな第一志望一緒じゃなかったんです」って歌詞は本当に泣けるものだし,SHHisの登場はStraylightやnoctchill同様にシャニマスのサウンドの可能性を広げるものでその点だと「OH MY GOD」も欠かせない.
だけど上半期でこの中から選べって言われると結局これになるよねってのがこの曲.唯一の難点はタイピングが面倒なことである.
シャニマスをどんなゲームか説明するのは難しい.平たく言えばアイドルとしての高みを目指すわけではあるが,それぞれのコミュで主題のジャンルが豊かであり,中心となる本ストーリーというのが無いに等しい(どころかパラレルワールドである可能性もある,というかそうじゃないとW.I.N.G.のシステムに矛盾が生じるしシャニPが過労死しちゃう……)のでストーリーのあらすじというのは何かは私はわからない.ただ,全体曲とそのユニットの「シャイニーカラーズ」の楽曲には一貫したテーマが存在する.「空」だ.以下に曲名を並べてみる.
- Spread the Wings!!
- Multicolored sky
- SNOW FLAKES MEMORIES
- Let's get a chance
- Ambitious Eve
- いつかShiny Days
- FUTURITY SMILE
- SWEET♡STEP
- シャイノグラフィ
- Dye The Sky
- Resonance⁺
- Color Days
曲名にSkyやWingが入っているのが多いのがわかるだろう.シャニマスで当初実装された共通コミュはW.I.N.G.(Wonder.Idol.Nova.Grandprix.)であり,初期レアのカードは「白いツバサ」「283プロのヒナ」で,事務所の283プロも読み方は「ツバサプロ」である.共通のテーマが「新人アイドルがツバサを得て羽ばたいていく」であることは意識しているだろう.そして,このResonance⁺は「周年曲」(〇〇周年記念として出る曲なので)と言われる.1周年曲の「Ambitious Eve」「いつか Shiny Days」,2周年曲の「シャイノグラフィ」「Dye The Sky」の系譜である.そして周年ごとにシャニマスは新ユニットを登場させてきた.今回のユニットは「SHHis」であり,「Resonance⁺」にも参加している.つまり彼女たちの新たなツバサの色がこれまでのシャイニーカラーズに足されたのである.それはこれまでの周年曲にも同様である.「Ambitiou Eve」にStraylightを,「Dye The Sky.」にnoctchillの要素を見出すことが私はできた.この曲の場合は,
精一杯夢見た 精一杯手を伸ばした
そしてまたスタートを切った 陽の当たる場所へ
弾け跳んだ光は 弧を描いて宙へ
真っ新なストーリー もうー度
この部分じゃないかなって.アイドルという憧れを夢見て手を伸ばしたにちかと再スタートを切った美琴さん.
サウンドとしてはよく「シャイノグラフィ」を引き合いに出されることが多い.それはサビのリズムであろう.シャイノグラフィもResonance⁺もサビの上昇感が印象に強くこの曲を人気たらしめているものだ.違うのはビートの使い方である.シャイノグラフィはサビの前半はスネアの16分がどんどんクレッシェンドしていくことで高揚感を出し,後半でギターの8分のフレーズがイントロのアルペジオを再現するような形で響かせる.一方でResonance⁺はサビの前半でいきなりテンポがハーフフィールになる.そして前半から後半への以降でシャイノグラフィの前半に見られた16分のスネアの高揚感あるクレッシェンドが差し込まれる.サビ最後の「My Shinography」と「つないで見せる」の音節数が一緒でリズムもよく似ている.極めつけは曲同士の呼応である.
君が見るこの背中に 翼が見えるように行こう
(シャイノグラフィ)
私たちのこの羽にも名前があった
(Resonance⁺)
この呼応ができるのは先程述べたとおり「シャイニーカラーズ」の楽曲には一貫したテーマが存在するからである.このテーマで曲同士が結びあい,成長していくことで我々はエモを感じるのである.
シャニマスは本当にいい曲が多く,それ以上にいいコミュがあります.ぜひ皆さんもシャニマスを遊びましょう.グレフェスはやらなくてもいいです.
星見プロダクション「The Sun, Moon and Stars」
推し,沖井礼二
先程のシャニマスとは違って私はIDOLY PRIDEの存在をこの曲で知った.きっかけは私が沖井礼二の大ファンであることだ.
沖井礼二との出会いはきんいろモザイク一期のエンディングテーマの「Your Voice」である.この楽曲との出会いは私の音楽人生でも相当の衝撃であった.今でもBigBandを好んでいるのはここから来ている.
ほぼ同時期にこれまたまんがタイムきらら関係で沖井礼二の関わっていた「Cymbals」に出会うことになる.Cymbalsは当時既に解散していたがそれでもなお私の青春である.Cymbalsは当時「渋谷系」というジャンルでくくられていたが私は他の渋谷系の曲を聞いてもあまり刺さらなかった.沖井礼二のサウンドに惹かれていたのである.ただ,当時はシンガーの方である土岐麻子の方のファンであった.もちろん今もファンである.深海のリトルクライは沖井礼二ではないが彼女の声が持つ世界観によくマッチしている.
沖井礼二という名前で好んで聴くようになったのはTWEEDEESの発見である.
これを聞いたときに探し求めていたサウンドであることに気づいた.それからはTWEEDEESの曲を,沖井礼二の曲を求めて探し回った.
そして出会ったのがIDOLY PRIDEの本曲である.はじめて聞いたときには開始数秒でテンションの高いコーラスが聞こえてきた瞬間に叫んでしまった.キーボードの刻み方,ベースラインのせわしなさ,時折挟まれるコーラス,なにからなにまで沖井節全開であり,最高傑作と言っても過言ではない.それだけ求められていたものとして理想的すぎる.そしてこの層の厚いサウンドは実際にこの曲の狙っているところであろう.「Highway Star,Speed Star」に似ている感触で,この夜の星々や街灯などの「夜の中にある光」の雰囲気を出すのがとても上手い.
ちなみにIDOLY PRIDEの方もkzさんや田中秀和など豪華作曲陣が集っており曲もめちゃくちゃいいので聞いてください.沖井礼二とIDOLY PRIDEをよろしくおねがいします.
「GIRLS' LEGEND U」
気の狂った回数繰り返される転調と有名進行でストーリーの生まれるサビ
アーティストは誰に当たるのでしょうね.ニコニコ大百科見たら関係者多すぎてイイネになった.
作曲者は「うまぴょい伝説」も手掛けたサイゲの本田晃弘さん.両曲ともそうだがとにかく転調の使い方が良すぎる.けどこれ音痴のオタクは歌えないだろ……
音楽理論的な話は詳しくはしないけど,色々語るところがたくさん.そもそも最初のファンファーレはマシだと思ってる人いるけどあれ結構変拍子よ?ファンファーレ終わりの「やっとみんな会えたね~~~」の歌詞はそれまでのウマ娘がリリースされるにあたっての長い歴史や様々な壁を表現したのだろうが,こんなご時世なのでまたLIVEとかができるようになって一曲目にこれを持ってこられた際にはタダでさえ汁気の多いオタクどもが全員涙を流して浸水しちまう.そしてここの「ね~~~」の部分のピカルディ終止のワクワク感が嫌いな人間はいない.
Aメロの裏主体のシンコペーションの推進力がBメロでのストリングスで落ち着きを持つ構成,そしてAメロのツーファイブワンがBメロで応用されて転調するシーンは背中がゾクゾクするくらいすき.ジャズだとこういう手法は多くてこの転調は「How High The Moon」とか「ornithology」がそう.
これまでの曲を見てこのあたりで気づいた人もいるかもだけど私は転調が大好き.小学校に入る前に一番スキだった曲は愛のプレリュード.
転調によって調が下がりどんどんテンションは落ち着いていったと思ったら三回目のツーファイブワンでワンにいかずにフィールもメロディもテンションが大加速,いよいよ最高潮に……と思えばサビの入りの「き~み~と~」であれだけ騒がしかった裏のリズムが完全に消え去る.このタメのカタルシスがもう最高すぎる.そしてこの曲一番の目玉がサビ,これ一番は小室進行で二番はカノン進行になっている.サビに入った瞬間の耳馴染みの良さはこれであるが同じフレーズにこの有名進行を両方使うというのは聞いたことがない.これによって一番は切なく,二番は明るくなる.実際に歌詞も
キミと 走り競いゴール目指し
遥か響け届けMUSIC
ずっとずっとずっとずっと想い 夢がきっと叶うなら
あの日キミに感じた何かを信じて
春も夏も秋も冬も超え 願い焦がれ走れ
Ah 勝利へ
から,
キミと 未来描きゴール目指し
狙え挑め掴めWINNING
ずっとずっとずっとずっと想い 夢はきっと叶うから
あの日キミが流した涙も信じて
雨も風も雲も闇も超え 願い焦がれ走れ
Ah 勝利へ
のように,「夢がきっと叶うなら」から「夢はきっと叶うから」になってる.オタクの涙腺は対比に弱い.そして二番の終わりからラスサビまではマ~~~~~~~~~ジで今年1良い.勝ちたい!って感情からグイグイ展開が進んでいくのが本当に感動的.この曲は転調とかが突拍子もない(実際は回数が多いだけで中身は同主調とかが多いのでそうでもないけど)のでそっちに目が行きがちだかシンコペーションの多用であったり八分で同じ音を続けることで表現される,曲のコード進行の強烈さに負けないメロディの推進力こそがウマ娘のレース模様とそれに対する感情の高ぶりを表現できているんだと思う.
そういうわけで楽曲はTVサイズで語れることなんか少ない.オタクは気に入った曲は必ずフルを買いなさい.
東京事変「緑酒」
閏年「2020」に復活した事変の思い
まずもって緑酒とはなんぞやと.日本国語大辞典を引いてみよう.
つまりは「美味い酒」のことを指す.古い日本語の場合は「緑髪」や「嬰児」のように「みどり」は「若い」の意味で用いられた.ともすればこの場合は「新鮮な酒」とでも言えようか.
それに対してこの曲の英題は「Awakening」である.意味は「目覚め」一体誰が?何から?
MVの最初を見ると緑酒の場面はハレの日,つまり特別な行事のある日である.ここでよく見てほしいのがカレンダーの日時,29日から1日になっている.つまりこれは閏年である.ここまでは自分で気づいた.やっぱ事変といえば閏年だよなって.さらなる解釈をしている人がYouTubeのコメント欄にいた.
さらに、
29日が青表記…土曜日
1日が赤表記…日曜日 とすると、
皆さんがいらっしゃるのは
2020年3月1日ということですかね?
昨年盛況に行われるはずであったツアーの開始日である閏日から1日にかけての皆さんの思いも感じられます。
というのがあって本当に凝っているなあと思った.一番手頃に手に入る閏年のカレンダーだと思ってしまったので.
椎名林檎は日本やその文化を題材にした曲をたくさん書いてきた.そもそも歌詞に古典的な言い回しが多い人でもあるが.一番最初に思い浮かぶのは「NIPPON」だろう.
この曲のテーマは「勝負」である.NIPPONと銘打っているがサッカー放送のテーマ曲とあってサムライブルーと絡めて鼓舞するような曲である.曲名からしてNIPPONを掲げ,歌詞にも日本の要素が散りばめられており,日本人の奥深くの熱を呼び起こすようなアツい曲である.
一方で緑酒のテーマは「自由」である.
「乾杯日本の衆」で始まる歌詞からもわかるようにこの曲も日本人への語りかけである.曲の歌詞ひとつひとつを抜き出して良さを語っても日が暮れてしまうので,焦点を絞ろう.Awakening,これは歌詞を見ると理解できる.「日本人よ自由に目覚めよ」と.ならば曲の最後の「Stay Awake」は?最初この曲を聞いたときにはこの歌詞にびっくりした.なぜ「Stay Awake」なのか.「目覚めよ」ならば「Wake Up!」だろう.曲を通して自由に目覚めたのだから「これからも自由を離すんじゃあないよ」のStayなのか,それとも既に日本人は自由に目覚めていたのか.
ぺてんのない世の中を直ぐに作んなくちゃ
そう願わくばいっそ老いも若いも多弁であれ
腹の底で何も考えていなければ「多弁であれ」とは言わないだろう.「NIPPON」では,「何よりも熱く静かな炎」と評された日本の魂.内では決して自由の精神を離しちゃあいない,常に静かに燃え続けている.しかし静かであっては世の中変わらない.「逃さない」「離さない」ではやや受け身だ.「傍に抱き寄せ」るくらいに動かねば.
そろそろ祭典が近づく.しかし祭典を取り巻く環境は「NIPPON」リリース時とは異なる.メッセージとしては「日本人の鼓舞」という点では同じだろうが,そこには時代の変化故か,いろんな違いが見られる.じっくり歌詞を見つめてほしい.
ARuFa「さんさーら」
エグい進行をする作曲家とエグい発想をする奇人が出会いました!
そしてこの曲の制作陣ですが,
え?何この劇物混ぜ込みご飯?
まずはこの記事を読みましょう.
ARuFaさんは「オモコロ」にてウェブライターとして活躍している人で私みたいなインターネットどっぷり浸かり人間なら誰でも知っている.
このあたりが好きな記事.色々説明するよりも見てもらった方が早いだろう.よく常人離れしたアイディアだとか言われているけどそれは少し違うと思う.どちらかと言えば常人が一瞬頭の中で面白そうだな~~~と思ってもアホらしくてやらないようなことを高いエンタメ性を持って実行できる行動力ではないかと思う.
人間ぶっちゃけ普段生きててそんな大声出すことなんて無いじゃないですか。笑うにしろ怒るにしろ悲しむにしろ。
感情の動きを肉体のダイナミズムで表現する人って見てて気持ちいいし好ましいんだよね。
そこには恐らく、普段私たち自身が解き放ちきれない感情の開放がある。その開放感の肩代わりをテレビ画面を通して芸人達にしてもらってるって部分があるんじゃないかな。
ここでは明石家さんまに対する評としてこの解釈が述べられているが,これは何も身体性に留まらないと思う.やってみたいけどくだらないことを大真面目にやっていく姿は面白いを通り越して清々しいしかっこいいのだ.
次に田中秀和である.彼はデレマスやニャル子さんなんかの曲が有名だろう.
彼のヤバさを一躍有名にしたのは「ゆゆうた」が評した「イキスギコード」の持つ言葉のパワー性だろう.
曲中に挟まるちょいセクシーなコードと言えばいいのに,こんなあんまりに明け透けで直球なフレーズと大袈裟さでマニアにしかわからなかった彼のヤバイ部分が有名になった.動画でも触れられているが「灼熱スイッチ」のサビ頭のGaug/F(ⅠAug/♭Ⅶ)は,そのコード単体がヤバイわけではない.オーギュメント自体はそれほど突飛なものでもなく(ルートにFを用いるのはちょっとヤバイけど)普通につなぎに使われるものだ.サビのド頭にこれをぶつけようって発想がイカれているのだ.
田中さんの楽曲は一見すると可愛くてポップな作風なのに、その裏側では技術的に物凄いことが起きてて……。なので何が起こるかわからない展開に僕は非常にドキドキわくわくするってことです!
その常識への囚われなさというかなんでも取り入れてみよう!ってサウンドはARuFaさんとのコンビとしては最適ではないか.曲のサウンドの部分では特にAメロの開始前や曲の最後なんかはモロ.
さんさーら! / ARuFa ギターコード/ウクレレコード/ピアノコード - U-フレット
多分これ見るのが一番手っ取り早い.いやキモ……
作詞のピノキオピーさん(普段は作曲もやってる,聞きな.)はARuFaさんの一番最初の曲の作詞も担当している.付き合いが長いので彼の人となりもよく存じているだろう.
作詞家に触れたところでこの曲のタイトルを思い起こそう.「さんさーら」saṃsāra,それはサンスクリット語でいうところの「輪廻」である.大辞林の力を借りよう.
早い話が「生まれ変わり」である.
頭 身体 手足通して
また足跡が増えた
朝だ 朝だ ビックリマークの娑婆
産声あげた さんさーら!
冒頭やサビあとなどに何度も繰り返されるこのフレーズこそ生まれ変わりの象徴である.娑婆なんて単語もそうだ.仏教的には「人間の住む,苦しみに満ちた耐え忍ぶべき世界」くらいのニュアンス.他にもこの曲には「地獄」「天国」「針山」「走馬灯」「鬼の友達」などなど仏教的世界の中でも結構シビアな環境へと歌詞の中で行ったり来たりしている.それでも常にこの歌を歌うARuFaさんのスタンスは常に変わらない.とにかくどんな場所でも常に日常に存在するワクワクを見逃さない,そんな底抜けの明るさというか変わらないARuFaさんの姿と歌詞のギャップがこんなに明るいメロディなのにちょっぴり切なさとして現れるのかもしれない.
これは先程の記事の中の歌詞決め会議みたいなののまとめみたいなやつなんだけど,最後の「まだやりたいことがメチャある」ってのが本当にバイタリティの塊すぎていいなとなった.本当にこの曲の世界でも生きていけそう.
そして今回紹介する中では唯一のアマチュアの歌手(そもそも歌手という分類にあるかも怪しい)ARuFaさんが持ってる歌唱力面の持ち味,それは声の高さである.
90年代,ダウンタウンの浜田はたくさんのヒット曲を抱えていた.芸能人が歌を出してヒットする時代の中でも特に大きな影響力があった.その浜田の歌唱力をなんかの歌番組でTKだったか綾小路だったか忘れたが(全部うろ覚えやないかい)発言だけはきっちり覚えている.
浜田さんは声が高くてよく通るから曲の中でもしっかり存在感があるし耳に馴染みやすい
当然ではあるが声はある程度高い方が通りやすいし存在感がはっきり出る.ARuFaさんもサビなんかは女性が歌っているんじゃないかと思うくらいに音域が高い.だからこの田中秀和の遊び心溢れた裏のおかず的なフレーズに決して負けることのない存在感を出すことができるのではないか.この曲のキラキラ感はARuFaさんにしか出せない.
ARuFaさんとともに時代を生きることのできる現世に感謝しなくちゃな……みんなも毎週木曜は匿ラ聞こう!
フレデリック「名悪役」
ストレートにぶつけて来た言葉のプロの強さ
フレデリックといえば一番印象強い曲はなにか,ファンだろうとそうでなくともほとんどの人が「オドループ」をあげるだろう.
「踊ってない夜を知らない」を始めとした語感重視の歌詞を当時流行っていた4つ打ちダンス系サウンドに乗せて繰り返すことで強烈な中毒性を持ったこの曲は2014年に突如現れてからは大バズも大バズ,このイメージで固まるのに十分なインパクトだった.今書いといてなんだけどもう7年前……?目眩してきた……
そしてそのオドループを踏襲するようにこれまた語感重視でMVに謎の美人女の子謎のダンスと求められたイメージのフレデリックをハイクオリティで出してきた.
フレデリックの中で一番好きなのはこれ.言葉で説明しにくい感動は「性癖」って行っておけばごまかせるって近所のネコが言ってた.オンリーワンダーでめちゃくちゃ増えた女の子は一人になったけどサウンドの厚みはシンセの影響でぐんと増した.
そして今回の「名脇役」,初めて聞いたときに思ったこと「フレデリックってこんなわかりやすい歌詞書くの!?」
フレデリックはオドループから確かにメロディラインはポップでキャッチーなものになったけどそれ以前から割と歌詞は意味不明だったから,今回のものはかなりストーリーとしてはっきり理解できるものになっていた.読み物として提供されてもそこまで違和感が無いくらいに.
思い出にされるくらいなら二度とあなたに歌わないよ
という歌い出しと,
演じてやったんだ
すべてを演じてやったんだ
まだ見ぬノンフィクションを脳に浮かべてその台本を置いた
って結びがあんまりにも綺麗すぎる.
そんな曲の初出しが今年の2月にあったLIVE.LIVEで初めて聞く歌い出しが「思い出にされるくらいなら二度とあなたに歌わないよ」だったらもうその時点で記憶すっ飛んでる.
康司って、言葉の中にある「本当の意味」だったりとか、ひとつの問題に対して自分の中でいったん解剖して、そこで自分で正しい選択をしていくっていうか、「どれもいい方法なんだよ」っていうのを見せていく人やと思っていて。言葉の前提とか先入観を一回疑う人やなって。頭のフレーズって、人によっては「なんちゅうことを歌うんや!」って感じじゃないですか(笑)。でも、それをフレデリックとして出せたのはやっぱり、康司が今まで作ってきた歌詞における信頼度やと思うんですよね。「この人がこのフレーズを使うんやったら、この後に『本当はこう伝えたい』っていうメッセージが待ってるからや」っていう。そういう信頼も含めて、このフレーズめっちゃいいなって感じましたね。フレデリック全員の中に、康司の歌詞に対する信頼やったりとか、「康司が本当に伝えたいところのためにやってることなんやな」みたいな。そこはみんな共有できてるだろうなと思ったし、自分も共有したいなと思ったので。
これまでのヒット曲で言葉に対して音感をはじめとして様々な切り口から表現してきたからこそ帰ってきたものってのがこの歌詞なのかと考えるとより深いものを感じる.そして,
フレデリックって、音色のカラフルさとか楽曲自体のポップ感もあるけども、核心はやっぱりロックバンドだなと思っていて。時代に対してのアジテーションではないけれど、今この時代の中で思うこと/伝えるべきことを、歌詞の裏側に綴っていくっていうことを確かにやっているバンドだし、「名悪役」はそういうロックバンドとしての側面が際立ってる楽曲だなと思いますね。
曲を聞いて思ったこと二番目のアンサーがあった.いままでの楽曲と違ってロック風味がつよい.音色のカラフルさや楽曲のポップさを無理に売りとして押し出してる感が無い.そのストレートな音色が楽曲によく合っている.だからといって没個性になることはない.中間部のドラムの3拍子の部分やAメロのギターのリフなどの個性がはっきり出ているからフレデリックの曲だとしっかりわかる.
あと完全に布教なんですけど,フレデリックみたいな曲が難しくてMIXも巧みなバンドはLIVE映えしないでしょって思う人,このLIVE映像見てください.三原健司の声がアルバム1000倍マシでエロい.そしてLIVEへGO.
BUMP OF CHICKEN「なないろ」
自ら立ち上がるか,それとも
バンプで好きな曲を聞くと年齢がわかるというのはあながち嘘ではない.それだけバンプは息が長いバンドであり,常にその時代の中高生に刺さってきた.
翌年に出す『THE LIVING DEAD』では、今流行っている所謂『カゲプロ』のように一曲一曲にストーリーがある手法を見せている。
この時代に今でも十分通用する邦ロックのスタイルで物語を楽曲に落とし込んだバンドは少なかっただろう。
その結果か、今ではもう懐かしいフラッシュ映像が流行った。
私よりも上の世代だとおもしろフラッシュの印象が強いらしい.曲の持つストーリー性が映像による表現と合致したのだろう.ラフメイカーなんかは天体観測よりも古い(2000)曲なのだが.
私の世代だと「ray」がちょうど中学生あたりにリリースされ当時は初音ミクの人気もありかなり有名な曲になったのも覚えている.
バンプは僕や僕より年上30歳前後の諸兄にとっての青春だった。そして今ぴちぴちの中高生にとっての青春でもある。おかしなことだよ。例えばだよ、くるりとか、アジカンとかとか、息の長いバンドっていうのは当時最大瞬間風速だった時のファンたちの年齢と共に彼らの音楽性もアダルトになっていく。新規顧客も取り入れていかないわけではないが大部分を支えるのはやはり当時からのファンたちだ。
さきほどの記事やこの記事が示している通り,バンプは常にその時代の中高生を取り入れている.おっさんたちに変わっちまったななんて言われてもその時その時の中高生にはきっちり受けている.
最近の中でもかなりアツかったのは「アカシア」の登場.これは私が語るよりも上記の卯月コウの解釈を聞いてくれ.推しはファンに似るというか,バンプで育ってきた人間は語彙力がやたら高いので……
結局それはいい音楽を作りたい、いいライブをやりたい、1人でも多くの人に届けたいということに行き着くんです。
この言葉の通り,バンプは昔に比べると「多くの人に届ける」という点にシフトしていったような気がする.昔は「ブラウン管の向こう側で俺ら評価されたくないから」なんて言ってたくらい.今でもその根幹は変わっていないようにも思えるが変化が生じたのは確実だ.バンプにはタイアップ曲が非常に多い.
数多くの代表曲を持つため、どれかしら一度は聴いたことがあるものも多いはず。ごく一部を抜粋する(詳しくは次項「来歴」へ)。近年はタイアップ曲が多くなっている。
代表曲:「天体観測」、「花の名」(『三丁目の夕日』主題歌)、「ray」(初音ミクと公式コラボした、紅白歌合戦出場曲)など
アニメ・ゲーム主題歌:「sailing day」(映画『ONE PIECE』)、「カルマ」(『テイルズオブジアビス』)、「ゼロ」(『ファイナルファンタジー 零式』)、「Hello, world!」(『血界戦線』)、「GO」(アニメ『グランブルーファンタジー』)、「アカシア」(『Pokémon Special Music Video 「GOTCHA!」』)など
「楽曲としての強度がありつつもアニメにあてはめることができる曲」が書けるのはやはりその歌詞のフレーズ力が非常に強いからであろう.
そこで今回のこの「なないろ」である.この曲は NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」の主題歌に起用されている.
宮城・気仙沼湾沖の島に生まれ育ち登米で青春を過ごしたヒロインが、天気予報を通じて人々の役に立ちたいと気象予報士を目指して上京し、やがて故郷の島へ戻り予報士としての能力を活かして地域に貢献する姿を描く。安達奈緒子作。清原果耶主演。
(中略)
東日本大震災から10年の節目にあたる年に、NHK東日本大震災プロジェクトの一環として、東北の現在と未来に焦点を当てた物語を制作する。作品の舞台は宮城県気仙沼市と登米市で、宮城県が連続テレビ小説の主な舞台となるのは『繭子ひとり』『はね駒』『天花』に続き、17年ぶり4度目となる。
つまり朝ドラのストーリーとしては「東日本大震災」がキーテーマとなっている.震災がテーマになっている物語はほぼ必ずと言っていいほど「復興」もテーマとして付随してくる.なのでこの曲もつらい過去を払拭するようなメッセージを持っているのだがそれぞれのフレーズが非常にバンプらしい.
涙の砂 散らばる銀河の中 疲れた靴でどこまでだっていける
躓いて転んだ時は 教えるよ
起き方を知っている事
こことかめちゃくちゃバンプっぽい.あくまで手を差し伸べて助けてあげるのではなくて,起き方を教えてあげると,転んでしまった人の強さを導いてあげるというもの.BUMP OF CHICKINというバンド名の意味は臆病者の一撃である.臆病者を助けてあげるのではない,臆病者が一撃を食らわせるのだ.この部分こそ若い人の支持を常に受ける要素の一つだろう.
また,本ストーリーのテーマに「天気」があることから歌詞にも天気を用いた表現が多い.(というよりバンプは天体観測をはじめとして元から天気を用いた表現が多いようにも思う.)なないろと天気と言えば虹だ.歌詞の中には虹という表現よりも太陽と雨の対比の構造の方が目立っているように感じる.雨上がりの虹はまさに復興の象徴と言えるだろう.
いつだって臆病者の味方をしてくれるバンプ,君が一撃を食らわせてやりたいときは手にとってみると良いかも知れない.
終わり
こう書いてみるとめちゃくちゃミーハーな曲選(でも売れる曲はいい曲なので)になってちょっと驚いています.曲に対しての感想って「良いっ……」しか出てこないものだと思ってたからこうやって文章にすると結構な分量になるなあと.特に前半は完全に筆が乗っちゃってるのでちょっと後半はセーブしました.合計の文字数は19241字で,ツイートにすると140ツイート近くになります.140×140でなんとなく綺麗ですね.ちなみに梶井基次郎の檸檬が5436文字,太宰治の走れメロスが10882文字,江戸川乱歩の赤い部屋が19365文字です.こんなに楽しいならこれからも良い新曲が出るたびにブログに書いていこうかなと思いました.なんなら毎月やってもいいかもしれないですね.長いスパンで書くと今回みたいに超有名曲だらけになってしまうので.